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Case

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「作りたい音楽か、
売れる音楽か」
という二項対立を超えて。
—インディーズバンド
というスタートアップ

  • クライアント:新東京合同会社
  • ブランド:バンド「新東京」
  • スコープ:ブランドリニューアル及びマーケティング支援
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アーティストの戦略設計とデザインは、経済合理性だけでは決定できない—。それは商業クリエイターである我々がアーティストブランドを取り扱う際の難しさであり、面白さでもあります。

マーケットに対してどのようなプレゼンテーションをすれば、あるいはどのような実態を実装すれば経済合理性が高いかという尺度は、アーティストビジネスにおいても有用だと考えています。その一方、そもそもそのアーティストが支持されるのは、彼ら彼女らの作品が合理的だからでも課題を解決してくれるからでもなく、作品が感覚的に魅力的だからです。その感性が支持されているということです。そのため、作品の作り手の好き嫌い、快不快という感覚論を無視することはできず、むしろそのプライオリティは高く据えることにしました。

インディーズバンドも、少ないリソースで大きな成長(商業的成功)を目指すという意味である種のスタートアップと言えると思います。出資や経済的支援を受けていればなおのこと。しかし通常のスタートアップとの違いは、この感性のプライオリティの高さではないでしょうか。4ピースギターレスバンド「新東京」然り。

彼らからどのような景色が見えているのか。どのような感覚的思考をしているのか。それらを少しでも自分に憑依させるために、私(担当クリエイティブディレクター=榊原)はまず全楽曲の歌詞を単語単位に分解し、出現回数から制作時期ごとの傾向を探ることから始めました。言語には当人の無意識が、比較的観察しやすい形で表出するからです。それを全曲のMVの全カットの視覚的傾向と、全てのインタビューと突合し、彼らの思考の中の濃度の高い箇所を探っていきました。そしてこの発掘作業と、音声としての楽曲を何度も何度も往復しました。

目的はやはり「新東京らしさとは何か」を特定することでした。しかし問題は、「らしさ」とは往々にして複数の側面があり、そのどれによって「らしさ」を代表するかということでした。

「新東京」という名前は新しいシティポップを世に提示しようという野心に由来しています。デビュー曲の“Cynical City”はまさしく東京を彼らの解釈で描いたものであり、これを携え結成2年目にしてSUMMER SONICの舞台にも立ちました。そのため、彼らが描く東京、彼らの東京観を「新東京らしさ」の中心に据えるという選択肢も浮かびました。

しかし結果的にそうしませんでした。当時彼らは弱冠21歳。彼らの目に映る東京は、今後変わりうると思ったからです。私が彼らの存在を知った時も、その萌芽がありました。変わりゆく彼らの中にある、普遍を見つけたい。そう思い模索の旅は振り出しに戻りました。

そうして夢に出てくるほど曲を聴いていくうちに、自分の中に4つの曲線のイメージが立ち現れてきました。そのイメージの水源を手繰り寄せると、まず第一に各パートが非常にメロディアスでアップダウンに富むという特徴がありました。ベースやドラムでさえも。あるパートが主で他が従というわけではなく、すべてが主役で、互いにもつれ合いながら舞っているようにも聞こえました。そして第二に、彼らのライブパフォーマンスを観ていると、誰かが他を先導するのではなく、互いが影響し合いながら、呼吸を感じ合いながら演奏しているのが印象的でした。この4人の相互作用が「新東京」のサウンドを生んでいるんだと思い至りました。

曲線のイメージは、田中さんが「新東京」を語る時「シンプル」「洗練」という言葉を多用すること、新東京のサウンドは西洋絵画のような面的なサウンドというより、余白の多い日本画のような線的なサウンド(※音価の短い音が多数配置され時間軸方向には高密度である一方、同時になる音は少ない、つまり積層方向には余白が多いということです)だと感じたこととも、文字通り線で繋がっていきました。

「Straying Lines & Beautiful Entanglement [彷徨える線、美しきもつれ]」というデザインテーマが生まれた瞬間でした。

WEBサイトデザインはこれを起点に、「今っぽいWEBサイト」を意図的に無視しとにかく削ぎ落としてシンプルに、されどGoogleフレンドリーなコーディングが可能なデザインを目指しました。新規ファンや業界関係者の閲覧も意識し情報の一覧性や探しやすさにも配慮したサイト構造になっています。ブランドロゴも、「新東京」の空気感を損なわずによりマスに耐えうるようリファインを施しました。

「作りたい音楽を作りたい」と「売れる音楽を作る必要がある」の葛藤はこの分野のビッグテーマですが、田中さんの場合は「ナショナルブランドよりも小さい規模感で、比較的高単価なビジネスモデルにすることでこのジレンマを超克する」という道筋に志向性がおありのようです。

今回のブランドリニューアルにおいて、ファンとのインターフェイスとなるデザイン面では「どう心を掴むか」よりも「どうらしさを表現するか」に振り切ったところがありますが、それはこのような志向性があったからです。
表現物はらしさを優先した分、マーケティングは戦略的に、という考えでやっていくと、結果的に彼ららしいブランドのままブランドステージが上がっていくのではと考えています。

こうした考えのもと、「そのルートで山を登るとしたらこういう状況に到達する必要がある」「そのためにこのピースを獲得しに行こう」といった議論を重ねながら、サブブランドの開発もご支援しました。

「作りたい音楽か、売れる音楽か」という二項対立を超えていくには、作品そものだけでなくマーケティングや経営戦略の援護射撃が不可欠だと思います。他にも様々な仕込みをしている最中であり、ファンの方をはじめ、多方面の方々に楽しみにしていただきたい次第です。

新東京合同会社

代表/Key./プロデューサー 田中利幸様

完成したプロダクトだけを見た誰もが「Studies」という関数の中身は、シンプルな計算式ばかりで構成されていると勘違いするでしょう。
引数に膨大な情報を渡した僕はその限りではありません。
我々の複雑怪奇な新東京像をまとめて、整理して、最後は膨大な引数の存在を感じさせない程シンプルなデザインに落とし込まれています。
同時に我々の新東京像の捉え方もシンプルに整理して、バンドの目的地も見やすくなりました。
完成したあとも、デザインはファンとのインターフェイスとしてだけでなく、我々にとっての一つのブランド指針ともなっています。
引き算の美学なんかといいますが、表現したいことを表現しきって、それをあたかも引かれているように見せることが一番難しく、かっこいいと感じました。